改正特許法による“補正の範囲”の判断基準
2001年7月1から施行されている改正特許法では、明細書などの補正の範囲が大きく制限されている。
すなわち、従前は“特許出願書に最初に添付された明細書または図面の要旨を変更しない範囲”内で補正が可能であったが、改正法では“特許出願書に最初に添付された明細書または図面に記載された事項の範囲”内で補正が可能であると改正された。
これは、“要旨変更”から“新規事項追加”という意味に概念が変わり、これの判断基準を特許庁での改正法の説明会(2001.7.9)の資料によると下記のとおりである。
-下 記-
改正法による新規事項の判断及び取扱
A.新規事項の判断
1.新規事項の解釈
1)特許出願書に最初に添付された明細書または図面に記載された事項の範囲から外れる事項を新規事項とする。
2)当業者が特許出願書に最初に添付された明細書または図面(以下、“最初明細書など”とする)に記載された事項によって判断した結果、自明な事項は新規事項ではない。
3)ここで自明な事項とは、その事項自体を直接的に表現する記載はないが最初明細書などの内容から見て当業者が記載されていたものと認めることができる事項を言う。
2.判断の対象
1)判断の対象は補正された明細書(特許請求範囲を含む)または図面であり、このうちどこにも新規事項を追加する補正は許容されない。
3.比較の対象
1)明細書などの補正は出願書に最初に添付された明細書または図面を基準にして新規事項の追加可否を判断する。
4.判断基準
1)明細書などを補正した結果が新規事項の追加になるかどうかは補正された明細書または図面に記載された事項(判断の対象)が最初明細書などに記載された事項(比較の対象)の範囲以内にあるのかである。
2)ここで『記載された事項の範囲以内』とは、出願書に最初に添付された明細書または図面に記載された事項の範囲内で外形上の完全同一を言うのではなく、当業者が最初明細書などの記載から見て自明な事項も記載された事項の範囲以内と見なす。
B.具体的な判断方法
1.優先権主張の基礎となった先出願は、特許出願書に最初に添付された明細書または図面に該当しないため、新規事項の追加可否判断の基礎として使用することができない。
2.要約書は明細書または図面に該当しないため、新規事項の追加可否を判断する基準となる最初明細書などに含まれない。
3.未完成発明を完成させる補正は新規事項を追加したことになる。
4.間違った記載を訂正する場合または分明でない記載を明確にする場合、最初明細書などに記載された事項の範囲以内のものと認められる程度の補正は新規事項の追加ではない。
5.明細書及び図面中に相反する2個以上の記載のうちどちらが正しいのかが最初明細書などの記載から当業者に自明な場合には、正しい記載に一致させる補正は許容される。
C.特許請求範囲の補正の許容範囲
1.特許請求範囲を減縮する場合(第47条第3項第1号)
1)請求項の削除
○請求項を削除することは請求範囲の減縮に該当するため適法な補正と見なされ、削除された請求項を引用する他の請求項の引用番号の変更などは請求項の整理に該当し認められる。
2)択一的に記載された要素の削除
○多数の構成要素が択一的に記載された場合、そのうちの一部を削除する補正は適法な補正と認められる。
たとえば、「AまたはB」という択一的記載要素のうちAを削除したりBを削除する場合である。
3)上位概念の記載から下位概念の記載への変更
4)構成要素の直列的付加
○新しい構成要素を直列的に付加することにより発明が限定される場合である。たとえば、“AにBを付着させた栓抜き”という記載を“AにBを付着させ再びBにCを付着させた栓抜き”とするような場合である。このとき、Cの付加が新規事項追加禁止に抵触されてはならないことはもちろんである。
※並列的付加の例:“ボルト”を“ボルトまたはリベット”にすることで記載要素を択一的に付加することを言い、このような補正は請求範囲を拡張する。
5)多数項を引用する従属項において引用項数を減少
2.特許請求範囲を減縮する場合に満たさなければならない要件
1)特許請求範囲を実質的に拡張したり変更しないこと(第47条第4項第1号)
○最初明細書などに記載されている構成要素の直列的付加により審査官が再び先行技術調査をしなければならない場合を排除して手続きの迅速な進行を図るためのものである。
○最初明細書などに記載された構成要素を請求範囲に直列的にふかしても、補正前後において発明の目的が同一でその付加された構成要素が実質的同一(例:周知慣用技術)の程度であることから新しい先行技術調査を必要としないと認められる場合には、構成要素の直列的付加を適法な補正と認めることができる。
2)特許出願時、特許を受けることができること(第47条第4項第2号)
○請求項が減縮されても、その減縮された請求項に記載された発明が特許要件を違反してはならないという要件で不実権利の存在を防止するためのものである。
3.間違った記載を訂正する場合(第47条第3項第2号)
1)間違った記載を訂正する場合とは、訂正前の記載内容と訂正後の記載内容が同一であることを客観的に認めることができる場合として、明細書または図面の記載が誤記であることが明細書の記載全体から見て自明なものと認められたり、周知の事項または経験則から見て明確な場合を言う。
4.分明でない記載を明確にする場合(第47条第3項第3号)